「先生はどうして先生になったんだってば?」
草むしりなどと言うぶっちゃけどうでもいい任務の合間、依頼人から支給されたお弁当をつついていたナルトが突然こんな質問をカカシに投げかけた。今までしていた話の脈絡からは到底考え付くものではなく、うずまきナルトという人物の意外性はこんなところでも発揮されるのかとカカシはまず思ったものだ。
うげっピーマンだってば。と、隣にあるサスケの弁当へそそくさと緑色のしなった物体を放り込むとサクラからお説教を受け、サスケからは溜め息を貰う。そんな光景が目前で広がっていたけれど―――。
ナルトの意識は依然此方へと向けられている。
「んー。どうしてそんなこと聞くのかなー?」
「だってさだってさ!別に先生にならなくても忍ってばやってけるだろ?それにせんせーってば暗部だったのに態々せんせーやる必要あったのかなって」
「あ、確かにそれ気になる。イルカ先生みたいな温和な性格は先生に向いてるだろうけど、カカシ先生みたいな性格には向いてないと思うのよね」
「向いてる向いてない以前の問題だろ」
「あー‥、お前等容赦ないねー」
この話題には残り二人も興味を示したらしい。サスケの方を見れば緑色のしなった物体は無くなっていた。食べた時のサスケの表情を見れなくてちょっと詰まらないなーと思いつつ、カカシは一つ溜め息をつくとぱたんと音を立てて本を閉じる。
「ま、基本的に子供は嫌いじゃないしね」
三者同様驚いた顔つきをするのにカカシは苦笑し、でも‥、と言葉を濁しすっと瞳を細める。
「一番は先生の影響かな」
「せんせい?」
「そ、俺の先生」
その人のおかげで今の俺がいる。
一人だった自分に命の大切さと仲間の大切さを教えてくれた。一人では無力で、助け合い助けられながら生きていくのだと。小さかった自分を叱り褒め称えてくれたのもあの人だった。その存在は大きすぎた。
「別に教師という立場にまで憧れていた訳では無いけどな。純粋に同じ位置に立てば同じことが見えるのかと思っただけだ」
「・・・・・・」
「まぁお前等になってしまった俺の運がないと言うか何と言うか」
「先生にそれだけは言われたくナイです!」
「少なくともお前のような大人にはなるなということは教わったけどな」
いい加減遅刻癖直してくださいと掴みかかるサクラに揺すられぐるぐるとする視界の中、こりゃまた地雷踏んだなーと思うのだ。だって黄色いヒヨコは万遍の笑み。
「せんせーの先生は凄いってばね!」
そう何もかも見透かしたような蒼い瞳で。
嗚呼、もうサクラにいくら叩かれようとも、サスケにいくら睨まれようとも、ナルトがどこまでもドベでも、やっぱ可愛いかわいい生徒達を守ってあげたいなんて思ってしまうのも、全て。そう全て“先生”のおかげなのだと思うのだ。