「先生またナンパしてたのね」
寒さが見に耐える頃、まだ順応しきれていない体を慰めるように用意されたおでんを夕飯に食べた後、サクラのグロスを塗った唇から漏れた言葉にその場に居たサスケとカカシはそれぞれの反応を示す。
新聞を広げ文字に目を落としていたサスケはチラリとカカシを横目に、そして言われた当の本人カカシは苦笑を浮かべて見られてたのね、と口にした。
「ナンパの95%は身体目的なんですって」
「まぁそうだろうねぇ」
ナンパという少し頂けない行為で生涯を共にする相手を本気で探そうとする男が何処にいるだろうか。誘う奴も誘いにのるやつもその時だけの関係を繋ごうとしているだけだ。良く言っても悪く言っても性欲処理。それをどちらと捕えるかは人それぞれなのだろう。
隠そうともせず笑ってサクラの言葉に返すカカシに続く言葉は逆接の接続詞。
「今回は柔軟にご辞退されたよ」
「あらら、カカシ先生にしては珍しい失態ね」
「それだけ相手が聡明だったんだろ」
次の見開きへと捲る音にサスケの的を得た回答が混じる。
齢三十半ばにして婚約者どころか恋人さえ居ないエリート上忍は木ノ葉の忍内で恋愛話にその名前が出てこない事は殆ど無いと言う程だと言うのに、至って本人は結婚という言葉に程遠い位置に入り浸っている。何故かという問いの答えは他の者にとっては興味深く意味不明なものであろうが、サスケやサクラにとっては正反対。自分たちと同じ思いなど興味も無ければ意味不明な訳が無い。
現在(いま)が心地良いなど―――
音には出さぬ笑いが三者を纏うなか、サクラがそう言えば、と口を開く。
「この前ナルトと二人で買い物行った時ちょっと美形な中忍二人にナンパされたわ」
「中忍風情が馬鹿げた真似を」
「まぁまぁそう言わずに。その二人だって自信があったんでしょーにー」
実力にね、と言うカカシにサスケがだから馬鹿だと言うんだと返す。
ナルトとて上忍にまで上り詰めた男、サクラと隣り合わせで並べばそれなりに身長差もあれば男女の関係にさえ見える。だが買い物と言うからには任務とは関係無くプライベートであり忍装束など来ている筈も無い。その時のナルトの姿はきっと経験上サクラのお見立てであろう。そんな服装がナルトの華奢な体格にプラスされればか弱い彼氏の完成だ。
「私だけでなくナルトも美味しく頂ければとか思ったのね」
「まぁ実際美味しいケドね」
「右に同意」
変わることなく笑みを出し続けるカカシと表情を変えることなく言い放つサスケにサクラは少し呆れを感じつつも否定し切れない自分がいることに気づいていた。そんなサスケとカカシに対しても言える事は沢山あるが、あえて言わずに目の前の煎餅へと手を伸ばした。
「したらあの子どうしたと思う?」
「ナルトだからねぇ、誘いにのったんでショ」
簡単過ぎるクイズだと言い放ったサスケもカカシと同じ答えらしい。サクラは今度はもう少し難しい問題を用意すると言いながら笑った。
「相手の誘いを断るだけが聡明じゃないのよ」
利用できるものは何でも利用する。ましてや相手から利用されにやってきたのならば利用してやらなければ相手に失礼ではないか。
「まあその時は私がお腹減ってたからお誘いを断らせちゃったんだけどね」
「その中忍共にしては気付かなくともサクラが救世主だったわけか」
「命拾いしたな」
他にもアホやら今度名前調べるだとか、好き勝手言う二人にサクラは苦笑を浮かべて煎餅にかぶりつく。そして噛みついた箇所から連動して割れた煎餅の欠片がちゃぶ台に落ちるのを見て笑みを隠す事が出来なかったのだ。
「夕飯前の買い物でよかったなぁ」
使い物に成らなくなった忍など忍であって忍で無い。そんな忍を増やさなくてよかった。
そんなサクラの呟きはお風呂上がりの髪の毛を濡らしたままこちらへ来るであろう少年へと意識を逸らした事によって虚空へと消えていった。
もしサクラちゃんがお腹減って無かったらナルトの思案通りに誘われるまま付いていって中忍二人は生涯使い物にならなくなってたんじゃないかな。身体も精神も、ね。ナルトだけが何か腹黒いようなことサクラさん言ってますが、ナルトだけでなくサクラも黙ってヤラれるたまじゃありません事は確かである。っていうそんな妄想。
とあるネットアンケートでナンパの目的は95%が身体目的であると言う結果をみて思いついたネタでした!