「お前なんか大っ嫌いだってばよっ!」
常に前を向きキラキラと輝かせている青色の瞳はどんより曇り空の様に暗く淀んでいて、瞳の縁に溜められた雫の源は今にでも零れそうなほど。涙を零しても尚三年前と変わらぬ強い視線で射抜いてくる青にサスケは思わず息を飲んだ。
「スカシだし無愛想だし人の事馬鹿にしすぎなんだってば・・・っ」
肩で大きく息をし前のめりになって抗議立ててくるナルトにサスケは言葉を慎む。そして言葉を発する事をやめた事により冷静さを取り戻した脳で何故なのか、を考えた。
里抜けから約四年。木ノ葉に帰還してから数カ月が経ってついこの間謹慎が解けたばかりであった。解けたと言ってもしかし監視は未だ付きもので、我が家で寛いでいてもどこかしら感じる視線に何をする気も無くただ家にある巻物を読み耽っていた時ナルトはやってきて、出掛けるってばよの一言で街中へと一歩を進めたのだ。
(一楽行って、安売り卵買って、トイレットペーパーを買ったわけだが・・・)
予定を聞けば何も決めていないと言ったナルトに溜息を吐いたのは記憶に新しい。だがサスケとて何をしたい訳もなかったので、腹が減ったと言えば一楽へ行ったし、偶々見かけた八百屋で卵が安かったので購入し、トイレットペーパーが無かったと騒ぎ出したナルトに言われるがまま十二ロールが今右手に存在する。
ここまででナルトが不機嫌になることは、無い。
「いきなり何怒ってやがんだ?」
「うっさいうっさいうっさい! サスケなんて嫌いなんだってば・・・っ!」
「・・・っオイ」
自分では分からぬ事は聞くに限るとばかりにナルトに問い正せば、とうとう青い瞳からポロリと崩れ落ちる雫にサスケは困惑した表情をみせる。それも何気人の往来激しい商店街のど真ん中だ、サスケもナルトも色んな意味で有名人故、視線が・・・痛い。
「お前なんかあのねーちゃんと勝手に仲良くしてやがれってばよっ!」
再度大きな声で大嫌いと叫ばれ全力疾走で走り去ってしまったナルトをサスケは見送るしかない。方向的にナルトが向かった先は自宅であろうことは明白で、サスケは一日の中で最も大きな溜息を吐くとナルトの自宅へ向けた一歩を周囲の痛い視線から逃げるように踏み出した。
左手の卵は自分のだからともかく、右手にかさばる十二ロールのトイレットペーパーは無くては困るものでは無かろうか。だから”仕方無く”持って行ってやるのだ。そんなこじつけた理由を掲げて歩く。
(にしても、まさか、な・・・)
走り去る直前のナルトの言葉を思い出してサスケはこみ上げる笑みを抑えきれない。サスケに馴染みが薄い人々では分からぬ微々たる変化も、カカシやサクラが見れば気持ち悪いと評される程の笑みを浮かべている自覚はあった。それほど、今。
「うかれてる・・・ってな」
明らかにあれは嫉妬だろう。それがどのようなものに属される感情なのかはナルトにしか分からぬものだが、嫉妬するということはサスケに悪意は抱いていない、ということ。色々と仕出かした事がことなので嫌われていないかと内心不安だったのだが、今回の事でそれも綺麗サッパリと消えてくれそうだった。
そして思い出される紅一点の言葉にサスケの笑みはより一層深くなる。
『ナルトにはサスケ君にだけしか使わない言葉があるのよ』
「”嫌い”だなんて本当にウスラトンカチだっつーの」
サクラにもカカシにも同期の仲間にも。誰一人としてナルトが”嫌い”という言葉を聞いた事はないと気付いてしまえば罵倒する言葉も嬉しく感じてしまうものだ。
許されると信じているからこその言葉。
「・・・夕飯、何にすっかな」
一人部屋で様々な思いを込めた涙を流しているであろうナルトをい浮かべて―――。
木ノ葉に、ナルトの処に再び戻ってこれた事に感謝をしようじゃないか。
お互い無自覚サスナル
信じあってるからこそ言える『嫌い』という言葉は好きっていう言葉よりも殺し文句だと思うのです